日記

だめにんげんの日々

みんなと食べることができなかったチョコレートケーキの味がする

「前置き」これは創作です。妄想から生まれた作品で物語り。ただの嘘。デタラメ。

 

子供のときから死んだ人を見ることができる。

家の中にも公園にいるから、母にあれは何と聞いても困ったように笑って、私にだけ言いなさいと答えるだけ。

これはあとでわかるのだけど私にだけ言いなさいというのは「あなたをわかってあげられるのはわたしだけなのだから私以外には喋ってはダメ」という意味である。

そもそも霊感というのは定義が曖昧すぎて怖しいもののほかに、芸術的なインスピレーションをさすこともあるし、起業家が肯定的な意味でつかったりする。

人は時と場合によってこわがったりありがたがったり、まったく勝手な生き物だなあと幼心ながらに呆れたものだ。

何年か前にも、おぎやはぎの小木が霊感があるというのは、ブスが注目を集めたくて嘘をついてるんだ。虚言癖だとどこかの番組で発言し炎上したが。

霊感というのは魅力的な個性ではないのだ。苦しみの種。この人は何も知らないのだ。

霊感をもっている人はみんな苦しんでいる。みんな平気なのに私だけトイレに隠れて震えている。みんなが入れる場所に私だけ行けない。そんな苦しみが。

ある日、家族で山の上まで景色のきれいなレストランへ食事をしに行ったんだけど、外からショートカットの女が見てるせいであまり楽しめなかった。

レストランを出てからその女がいたほうを確認しにいったら崖だった。人なんて立てるはずがない。

お母さんになんとなく「あのレストランさ景色はよかったけど味が残念じゃない?次はやめよーよ」と伝えようとすると、「あら?またなんかみたのね」と返ってきた。

窓をチラチラみたり崖行ったりして行動が少しおかしかったから察したらしい。

母はいう、私は空に手を振ってたり壁を指差して突然泣きだす子供だったから変なこと言うのはまったく違和感ないと。

むしろ父の母、お婆ちゃんにそっくりだと。

お婆ちゃんは、度々あそこに人がいると言ったり金縛りにあっていたそうだからこの子もそうなのだと。

母は理解をしめしてくれるが血筋なんで諦めなさいと言われているようで。苦痛を共有してくれる存在ではないのだと。悲しかった。

私はこれから隠して生きていくことを決めた。

誰かに危険が迫っているときにだけは口を開こうかと。大事な人が危ない心霊スポットに行こうとしたら止めたし、友人が事故物件を契約しようとしないよう付き添ったし。

隠していた思春期が1番辛かった。

オカルトやおまじないブームでスピリチュアルが流行り、クラスの一軍女子でさえも放課後の教室で降霊術をする時代。

ファッションとして持て囃やされてるときに所謂「ガチ」なものはお呼びではない。

          *

3の修学旅行は福島県会津若松だった。

私としては血生臭い場所は避けたかったんだけど。学校から必ず自由行動には飯盛山をいれろと謎指定があったので行かざるをえなかった。

地名を見たときから嫌な気はしていたんだけどさ。

飯盛山というのは会津戦争で中学生くらいの子が絶望して、腹切って、死んでいった場所。先生はそこに行かせてなんかを学ばせたかったんじゃないかな?私はエライ目にあったけど。

異変は宿に帰って夕食中に起きた。

ご飯を食べて、さあデザートのチョコレートケーキが運ばれてきたよって時だった。

急にお腹を横に切ったような痛みが走り倒れた。私はせめてチョコレートケーキを食べてから先生に言おうかなとフォークに手を伸ばすけど届かない。泣く泣く目の前に座ってた男子にケーキをあげた。男子は喜んでいた。

先生の控室でうずくまって1人寝かされる。もう片付けかな?デザートおいしかったかな?と考えながら。金縛りになって足元に黒い影が見えたような気もするけど幕末の事情なんてわたしには関係ないし迷惑なだけだから。

しかし、自分には関係ないと思っているのに強制的に感情を共有されてしまうのが霊感である。

白虎隊の墓の前で墓しか無いじゃん!はやくお土産屋いこーよ!てはしゃいでいた歴史をリスペクトすらしない女子たちはこんな思いをすることないんだ。羨ましくて少し憎たらしい。

 

それから誕生日には苺のショートケーキよりもチョコレートケーキをリクエストするようになったし、成人していつでもケーキが食べれる年齢になってもデザートビュッフェで1番に皿にとるのはチョコレートケーキだ。

 

時は流れて大学生になった。私はお金に困り風俗店に面接に行く事にした。仕事場は新宿歌舞伎町。

仕事内容は建前上性行為なしのオナニークラブ。高校生のころからライブハウスに出入りしていたから歌舞伎町はどんな場所なのか理解はしていたけど。その世界にとびこんで働くとは違う。

それに土地もあまり良くない。昔から色街で遊郭とかで栄えていたところだから。そこの街に集まった人々の情念がいつまでも浮かばれず漂っている。

昭和に出来たらしい古いビルの一室で面接。店のオーナーとボーイの責任者みたいな人と向かいあわせに座った。

ビルというか、その土地全部がダメっていうかんじで空気は重いし、オーナーの後ろから髪の長い女が顔を半分隠して、コッチをジッとみてくるからここで働くことは無理だと思った。

廊下でもゾワゾワした気配をかんじたけどどうでもよかった。ここはそうゆう所だ。早く面接を終わらせて帰りたい。

ここだけではなく方角が悪いとか、近くに古戦場があるとか、そんな些細なことで仕事も制限されてきたし、どうしてもやりたかったデザインのバイトも諦めた。普通だったら辞めずに続けられた?いままでたくさん諦めてきたし、これからずっと何かを捨てざるを得ない人生なんだろう。

女を見たくなくて下ばっか向いていたので、容姿は大丈夫だけど自信無さそうだから今回は保留。またその気があるなら連絡してねって言われて帰されてしまった。

霊感、霊感、霊感がなければここで働けたのだろうか。お金がなくて辛いのに。霊感はここまで私の運命に絡みつき翻弄するの。

 

帰り道の喫茶店で虚ろな目でチョコレートケーキをながめながら、これから生活どうしよーかなて呟いた。

あの時、とどかなかったフォークには簡単に手がとどくのに。アイスコーヒーの氷がカチャと音をたてて静かに溶けていった。